僕らのファミリーキャンプ物語 vo.12 『お父さんの失敗』
梅雨明けの爽やかな風が吹く土曜日の朝、我が家は久しぶりのキャンプに胸を躍らせていました。
特にお父さんの目は輝いていました。
日頃の仕事のストレスから解放され、家族と共に過ごせる貴重な時間。
その期待感が、少し度を越した行動へとつながってしまうとは、誰も予想していませんでした。
キャンプ場に到着すると、家族それぞれが役割分担。
お母さんは手際よくテーブルとチェアを並べ、タカシとミホは興奮気味に周辺の探検へ。
お父さんはテント設営に取り掛かりますが、その手にはすでにビールの缶が。
「今日は思いっきり楽しむぞ!」
という宣言とともに、お父さんは一気にビールを飲み干しました。
その姿に、お母さんの眉間にわずかなしわが寄ります。
昼食の準備が始まると、キャンプ場に活気が溢れます。
お父さんの得意のバーベキューから立ち上る香ばしい匂いと、ジュージューという音が食欲をそそります。
「おい、タカシ、ミホ、見てくれよ!お父さんのバーベキューは最高だぞ!」
得意げに宣言するお父さんの手には、またもやビールの缶が。
昼食は大成功。
家族全員の顔に満足げな笑みが浮かびます。
しかし、お父さんのビールの消費ペースは止まる気配がありません。
心配そうに「お父さん、飲みすぎないようにね」
と声をかけるお母さん。
だが、「大丈夫、大丈夫」と軽く受け流すお父さん。
その言葉とは裏腹に、酔いの程は深まっていきました。
午後になると、お父さんの様子は一変。
他のキャンプ客とも大声で盛り上がり、笑い声が響き渡ります。
一見楽しそうですが、家族の表情には不安の影が。
そして、夕暮れ時。
予期せぬ事態が起こりました。
ふらつきながらキャンプサイトに戻ってきたお父さんが、まだ熱いバーベキューグリルを倒してしまったのです。
幸い大事には至りませんでしたが、お母さんの表情は厳しさを増しました。
「お父さん!何やってるのよ!」
怒りの込もった声にお父さんは、「あ、すまん、ちょっと酔っ払っちゃって…」
と言い訳するのが精一杯。
タカシとミホは、両親のやり取りを心配そうに見守るばかり。
お父さんは何とか場を和ませようと冗談を言いますが、逆効果でお母さんの怒りを増幅させてしまいます。
「お父さん、こんなことしてたら、せっかくのキャンプが台無しじゃない!」
お母さんのため息が、夕暮れの空気に溶け込みます。
その夜、反省したお父さんは皿洗いを買って出ましたが、酔いが抜けきらず、皿を割ってしまいます。
「もう、いい加減にして!」
というお母さんの声に、お父さんはしょんぼりと椅子に座り込みました。
「ごめん、今日は本当にダメだったな…」
心からの反省の弁に、ミホがそっと寄り添います。
「お父さん、大丈夫だよ。次はちゃんとしようね」
タカシも「お父さん、またバーベキューやってね。でも、次はお酒控えめにね」
と、優しく声をかけました。
翌朝、二日酔いの頭を抱えながら目覚めたお父さん。
すでに朝食の準備をしているお母さんに近づき、真摯な表情で謝罪します。
「本当にごめん。もう二度とこんなことしないから」
お母さんは小さく微笑み、「わかったわ。でも、本当に気をつけてね」と応えました。
その日、我が家は再び笑顔を取り戻し、穏やかなキャンプの時間を過ごしました。
帰路の車中、お父さんが「次はもっといいキャンプにしような!」
と意気込むと、お母さんも
「そうね、次こそはね」と笑顔で答えました。
この忘れられないキャンプは、我が家にとって大切な教訓となりました。
こうして、波乱に満ちたキャンプは、我が家の新たな出発点となりました。
失敗を乗り越え、より強くなった家族の絆。
次のキャンプへの期待を胸に、我が家は日々の生活に戻っていきました。
そして、この経験は、お父さんの仕事へのアプローチや、家族との向き合い方にも良い影響を与えていったのです。